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此処は、ラント領主―アスベル家の庭。 庭には近くの裏山で見られるほどではないですが、晴れた空の下、 たくさんの花々が咲き誇っていました。 そこで赤い髪をした彼女がその庭で花にに水をやっていました。 「ふんふふーん」 陽気に鼻歌でも歌っていたのですが、不意に背後から声がしたので振り返ると いつの間にかサイドに揺れる長い紫の髪をした子が立っていました。 「シェリア、お話、いい?」 その小さな彼女たちの大切な人――ソフィはそう聞いてきました。 シェリアに断る理由もなく答えます。 「わたしでできることならいいわよ。一体何かしら?」 すると、長い髪を左右に揺らしてソフィは口を開きました。 「夢。」 「夢、というと寝ているときの、ということかしら?  怖い夢でも見たの?」 夢。ソフィは夢の話は過去にしたことはありましたが、それは明るいもので、 つい先ほど見せた表情とは関係のないようなものでした。 「違うの。・・・夢が明日を占うって本当?」 そう、その表情は好奇心と戸惑いの入り混じったような表情だったのです。 シェリアは思わず微笑んでしまいます。 「ソフィもそういうことに興味ができたのね。お母さんうれしいわー?」 今まで、そういった話ができる相手がいなかったためか、あんまり嬉しそうな顔を していたので、 「お母さん、ノリノリだね。」 と、つっこまれました。 「う、仕方ないじゃない・・・あのメンバーだとだれもこう言った話できないし・・・」 女性陣はまずそういったことに縁がなく、男性陣もまったくもって興味がない人ばかり でしたので、娘がそういったことに興味を持ってもらえることがよほどうれしかったのでしょう。 「それは置いておいて、夢占いねぇ〜・・・  そうね。人間は寝ているとき、記憶の整理を行うのだけど、眠りが浅い時に  目が覚めるとその時整理している記憶が夢として起きた時にも記憶されているの。  だから、夢はその人の深層心理などをうつすことがあるわ。  臨床心理学的な知識なのだけどね。」 と、真面目に夢占いを自分の知っている知識――専門ではないですが  を交えて解説しました。 人間でなく、なおかつそういった知識に疎いソフィには少し難しかったのか ちょこんと首をかしげます。 「そうね。簡単に言うと、夢は自分の知らない部分を知ることができる、  だから明日の自分を占うといわれるのよ。  例えば、昔アスベルとわたしが喧嘩したことがあったでしょう?  ・・・あの時はすごく後悔をしたのだけど、その日の夜はずっと謝り続けている  夢を見たわ。」 昔の話、シェリアにとっては辛い話を交え説明するとそれがよほどわかりやすかったのか、 「わかりやすい。」 ソフィに即答されます。よほどわかりやすかったようです。 それくらいあの時のシェリアの行動はばればれだったのでしょう。 「な、なんだか納得いかない・・・  それで、どんな夢を見たのかしら?」 誤魔化すようにシェリアが聞きます。 「お花畑で誰かを待ってるの。でも、誰も来ない。だから迎えに行くの。」 シェリアは心配そうな顔をしました。 「花畑というのは愛情のことよ。待っているということは変化を期待しているけど、  一人ということは孤立していると思っているのね。でも迎えに行くということは  不安ということね・・・で、その後探していた人は見つかったのかしら?」 探していた人や物が見つからないことは大きな不安を抱えていることを 暗示しているので、あまり心理的に良い状態ではないからです。 「うん。シェリアもアスベルも一緒に見つかったよ。」 しかし、その心配はなかったようで、シェリアはため息をつきました。 「よかったわ。それなら安心ね。状況はいい方向に向かっているわ。  ・・・ってわたしたちの話じゃない!!」 「お母さんとお父さんはいつももどかしいから。」 シェリアはリンゴのように赤くなります。 それもそのはず、当の本人――アスベルが聞いていたのですから。 「ごめん、娘にそんなことまで考えさせるなんて父親失格だね・・・」 そう言って茂みに隠れていた領主が出てきました。 「い、いつから聞いていたの・・・?」 「最初、かな。二人がちょっと心配だったから。それと、ごめん。」 俯きつつぼそぼそと呟きます。 「それは聞いていたこと?それともシェリアのこと?ハッキリしないと分からない。」 分かりにくい、と首をかしげ、ソフィが聞くと、 「ソフィが昨日うなされてたみたいだったからね。  どうやらシェリアのおかげで心配することはなかったみたいだけど。」 少し照れているのか頭をかき視線をそらしながらも確かにそう言いました。 「アスベル、心配症。」 「そうよ。さすがに心配し過ぎよ? 過保護すぎるのもいけないと思うわ。」 「確かにそうだな。うん、これからは気をつけるよ。」 「よしよし。」 なぜか娘になでられるアスベルさん。でもまんざらでもないようです。 「って、おーい!ホントの理由は別にあるんでしょ?」 ジト目で触れ合う親子を見るシェリアさん。 「やっぱりシェリアにはかなわないな・・・正直、怖かった。  いつ上手くいかなくなるかわからない。俺で大丈夫なんだろうかと、思う時がある。  ・・・なんか、昔を思い出すな。」 アスベルはいつの間にか曇り始めた空を見上げ、視線を手のひらに落とし何かを求めるように 握りしめました。 「そう、気付くのが怖かったのかもしれない。周りにおいてけぼりを食らって  自分だけが残されている。  みんなに頼って結局何もできないことが怖かった。  ・・・シェリアのこともそうだった。  最初から気付いていたのかもしれない。  でも、本能的な恐怖、守ることができるのかという自責が俺を縛ってたんだろうな。  心の底に閉じ込めて逃げていた。」 俯きがちに、本音がポツリポツリとこぼれ出します。 「アスベル・・・」 「だけど、今はもう、ちゃんと向き合うことができる。  だから二人とも、見守っててくれ。  ・・・違うな。」   照れ隠しか、ほほをかくアスベル。 シェリアの元へ歩いていき、跪き手をとりました。 「シェリア。これからも御前を守らせてくれ。」 そういうと騎士がそうするように、口づけをしました。 とたんにシェリアのほほがうっすらと朱に染まります。 しかしいきなりナイフを構え庭の茂みに投げました。 「・・・み、みんな見てないで出てきなさいっ!!」 「うわって、いきなりナイフ投げないでよ!」 茂みからはぞろぞろと見覚えのあるメンバーが出てきました。 「まったくだ。」 「僕は止めたんですけどね・・・まったく陛下まで加わって何をしているんですか!」 「一番興味深々だったのは君じゃないのかい?」 「うっ・・・」 「そうだよ、ヒュー君ノリノリだったじゃない!」 「そ、それはあなたが!!・・・なんでもありません!!」 ガヤガヤとあまりにもたくさん出てきたので 「なんだか、台無しだな。」 「・・・そうね。はぁ、誰も乙女心わかってないんだから。」 「まったく、だね。」 ソフィまで呆れ顔になっていました。 それを見て三人は思わず笑い出してします。 「ふふっ。まったく、この人たちがいると騒がしいわね。」 「本当だな。そういえば、みんな用事があってきたんじゃないのか?」 アスベルがそういうと、 「いや、俺たちは通りすがりだ。ついでによってこようってことになってな。」 と、教官が答えました。 「じゃぁ、お茶でも出すから中に入って。」 と、ソフィが一行を屋敷の中に連れて行きました。 残された二人。 「あはは、これじゃあ娘のほうがしっかりしてるな。」 「そうね、これなら安心ね。  さ、わたしたちも中に入りましょう。」 「そうだな。」 とある晴れた日の日常。 そんなほのぼのとした一日。 戻る