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鈴蘭の咲く場所

さやさやと風の吹く中、少年少女の一組。 鈴蘭の花が咲き誇る草原。 花を避けながら一組は進む。 少女は言った。 「・・・本当にいいのかな?こんなことがあって・・・」 戸惑ったように少年は答えた。 「仕方・・・ないだろ・・・。あいつがいる限りここにはいられない。」 一呼吸おき、少女は少年の前まで歩いて 「確かにそうだけど・・・そこまでしなくてもいいんじゃないかな?」 「もう決めたことだ。それに・・・」 「持っていくことはできない?そんなこと何度も聞いたよ!いくら――でも!!」 少年が言い惑っているうちに少女は畳みかけて反論していた。 だが、 「だめだ。俺は――だからな。」 「ずるいよ・・・――になるくらいならやめてよ!もう、こんなことやめようよ・・・」 「命を見捨てることはできない。蕾は、咲かせるんだ。」 少女は泣き出し、何も答えなかった。 そして何か取りだし、そこに置いた。 「さぁ、かえるぞ。」 そうして、一組の少年少女は立ち去った。 「・・・さよなら。」 それから、雨が降り、雪が降り、風が吹き、いくつもの時が過ぎ、再び鈴蘭の咲くころ。 少女の姿が一つ。 「綺麗ね・・・こんなに綺麗に花が咲く場所はあまりないわ。」 彼女は花の咲く中へ進む。 「・・・あら・・・?何かしら?」 動きに合わせ鈴蘭が舞う。 視線の先には人形が落ちていた。しかし彼女はなにもせず、立ち上がった。 「鈴蘭は綺麗ね。やがて枯れて哀れな姿になるものだけど。それも一時。  また、綺麗に咲く時が来る・・・・どんなことがあろうと、ね。  じゃあね、小さな小さなスズラン。」 そういった後、一回り花を見て立ち去ってしまった。 人形は残されたまま。 毒の散る夜。空は―色に染まる。人形の記憶とともに。 新しく生まれた少女の意思によって。 「うわぁぁぁぁぁああああ!!!」 「・・・黙りなさい、うるさいわ。花見は暴れてするものじゃないわ。  ハナが散ってしまうでしょう?」 強烈な殺気。少女は止まった。 「・・・あなた誰?」 「私は風見幽香。花の妖怪よ。」 「・・・わたしは・・・」 「あなた、毒を撒き散らす薬瓶みたいね。きりがないみたい。」 少女は黙ってしまった。 「捨てられたのね。可哀そうに。名前もなく、なにもない。  生まれたばかりで憎しみしか持ってないのは最悪ね。」 「そうだ!!わたしは人間に・・・!!」 「しかたないわ。名前だけでもあげましょう。地獄の中の慈悲ね。ありがたく受け取りなさい。」 「いいの・・・?わたしみたいな名無し妖怪に?あなたみたいな妖怪が名前をあげて・・・?」 幽香は笑い、 「減らないもの。名前なんていくらでもあるわ。でもないと困るでしょう?  それともいらなかったのかしら?残念ね。」 「いるっ!」 瞬時にそう答え、 「いい子ね。わかりのいい子は好きよ。名前は・・・そうね。  ・・・メディスン・メランコリーでどう?」 「ありがと!」 「ええと、何の話かしら?」 と、とぼけるとメディスンは声をたてて笑った。 「あなたって不思議ね。」 「なんでも不思議であるわけはないわ。不思議なものは不思議なものだけ。  そう、小意地になったりするものではないのよ。気楽に生きる、それだけ。」 と、何故か背中を向け、少し寂しそうな顔をしてそういった。 彼女たちは星々に照らされ、憐憫に輝いていた。 一人は残り、一人は立ち去る。 一人はまだ歩けず、一人は歩く。 一人は動かず、一人は動く。 二人は出会い、二人は別れた。 願うならば彼女たちに、素晴らしき出会いが訪れんことを。 戻る